まったりらくがき「GPCRのあれこれ①」
生化学と分子生物学の勉強をしていく中で必ずぶち当たる壁が「シグナル伝達」で、その柱の一つを司るのが7回膜貫通型受容体のGPCRでございます。おなじみ「アデニル酸シクラーゼ」とか「IP3」とか「PKC」とかいう単語が出てくるパートです。
まぁ、なんていうか自分が生化学にハマり出したきっかけがここら辺のメカニズムを有機化学の観点から見てみよう!などという無謀な挑戦に乗り出したからなんですが...
その頃から色々調べていって今までなんとなくわかったことをメモろうかなと思いました。書くネタもあんまり浮かばなくなってきたし...
GPCRの基本構造
普通の人がGPCRについて知っておけばいいことは「細胞膜を7回貫通する」ということくらいです。N末端が細胞外にあって、ちょびちょびグリコシル化されてて、7回貫通して、C末端が細胞内にあって終わり!みたいな。
例えばウシのロドプシンの構造を見てみるとこんな感じになります。
膜貫通部分を見てみると疎水性アミノ酸が多いことに気付きます。ちょい考えてみるとわかるんですが、膜貫通型タンパク質の合成におけるstart, stopシグナル配列はだいたい疎水性アミノ酸なので見当つくかなぁと。
GPCRってのは何万もの種類があって、ほとんど全ての構造はいまだ解明されてないですが、だいたい基本構造は上のような感じやろなぁというのはわかってます。
ただ基本構造がおおむね一緒だってことはわかってても、GPCRのリガンドってたくさんありますね。GABAだとかAChだとかカルシウムとか。そのリガンドはどうやってGPCRに結合するか?これがまた色々あるんですね。
リガンド様式による分類
昔の人たちが頑張ってくれたおかげでヒトゲノムが解明され、それまで曖昧だったGPCRの種類が分類できるようになりました。上図にも示したように、GPCRには5つの種類が今のところ確認されていまして、それらをまとめると:
- Family A 「ロドプシンファミリー」:GPCRの中で一番研究されてたのがロドプシンで、たまたまロドプシンに構造が似てたGPCRが多かったのでこのファミリーができました。(ex) ロドプシン、エイコサノイド受容体、ACh受容体
- Family B「ペプチドホルモンファミリー」(別名:セクレチンファミリー):名前の通り、ペプチドホルモンをリガンドとするGPCR群です。多分一番数が多いのがここ。(ex)セクレチン受容体、グルカゴン受容体
- Family C「GABA受容体ファミリー(仮名)」:構造的な特徴としてはN末端部分にクチバシに似てる構造(例えが下手すぎて申し訳ない)があります。神経伝達物質の代謝調節型受容体はこいつらでございます。(ex)カルシウムイオンセンサー受容体(CaSR)、GABA-B、mGlu受容体
- Family D「Frizzledファミリー」:名前の由来を探しまくったんですがわからずじまいです。もともとはショウジョウバエで発見されたものです。これはリガンドがWntファミリーであることがわかっています。Wntといえば、細胞分裂とか増殖とかそこらへんに関係してくるやつですね。Wntカスケードもまた面白いんですが今回は割愛。
- Family E 「接着受容体ファミリー」:もともとFamily Bだと思われていたものが色々調べていくうちに新たに分類されたのがこいつらです。実はこいつらの構造についてはN末端の配列が細胞膜表面の接着分子(カドヘリンとか)のモチーフに似てるってこと以外はそんなにわかってないらしいです。
Family B・D・Eはそこまで調べられてないのもあって今回はあまり言及できないのですが、Family AとCについてとりあえずちょびちょび喋ってみます。
Family Aのリガンド様式
Family A GPCRの共通点Family Aの主人公のロドプシンくんを見てみましょう。
ロドプシンのリガンドとなるのは11-cisレチナールという化合物なのですが、こいつは受容体の疎水性部分の奥深くに埋め込まれていて、Lys296のεアミノ基とイミン(Schiff塩基)を作って結合してます。この時に光が作用するとcis-レチナールはall-transレチナールに異性化するので、これに伴ってGPCRのヘリックスの立体構造が変わります。具体的にはヘリックスがズレてGタンパク質が結合できるような間隙(?)を作ります。これによってシグナル伝達がキックオフするわけです。
例をもう一つ。今度はアドレナリンβ1受容体です。気管支平滑筋拡張とかするアレです。
アドレナリンもこうして疎水性コアの中に埋め込まれる形で受容体に結合しますが、この際にカテコール核(Ph+o-位の関係にある2つのOH)はSer204, Ser207と水素結合していて、2級アミンとAsp113もまた同様に相互作用しております。イメージとしてはヘリックス同士を繋ぐ「橋」の役割をアドレナリンが担う形です。こういう架橋構造を作ると、ヘリックス同士の相対的な向きがズレてGタンパク質が結合するという感じです。
Family A同士でも立体構造のズレ方に違いがあるの、なんか面白いですね(小並感)
Family Cについて
Family Cの特徴的な構造はN末端側のクチバシ型(教科書とかではローブ状、論文ではVenus Flytrapとも表現されてたりする)の構造です。このローブ状の結合部位にCa2+とか神経伝達物質(GABA, Glu)などが結合すると、構造変化を起こしてシグナル伝達へとつなげます。
確認されているFamily C GPCRはほぼ全部ダイマーで、ローブ同士はCysのジスルフィド結合で繋がれています。ここでは代表的なGABA-Bを見てみましょう。
下がGABA-Bの構造です。
ローブは両方ともリガンド結合部位というわけではなく、片方だけにGABAの結合部位があります。じゃあローブは二つもいらなくねぇか?と思うかもしれませんが、実はこのGABA-Bが合成される時にC末端に小胞体保留シグナル配列がついてしまっていて、そのままだと細胞膜まで輸送できないのです。そこでC末端にもう一つのサブユニットが絡みつくと、このシグナルが覆い隠されて細胞膜まで輸送できるようになるのです。
しかもこのもう一つのサブユニットの方がGタンパク質と共役するので、こいつらはペアで働かなきゃいけない受容体なのです。
なんだか書いててgdgdになりそうなので今日はここら辺に止めておきますが、GPCR、とても深いです。
おまけ)トロンビン受容体
トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンに変化させて止血に関わる重要なSerプロテアーゼなんですが、トロンビン受容体も実はGPCRでなかなかに面白い動きをします。
トロンビンはArg-Serの間を切断するかなり特異性の高いSerプロテアーゼですが、受容体のN末端をこの箇所でトロンビンが切断すると、切断された部位がそのまま折れ曲がってリガンドとして機能します。なんとも不思議ですね〜(棒)切断されて離れたペプチドもアゴニストとして機能したりします(どのようにするかは知らない)。このような「プロテアーゼの特異的な切断によって活性化されるGPCR」を「プロテアーゼ活性化受容体(protease-activated receptor, PAR)と言います。なので例えばトリプシンとかAChエステラーゼとかにもこういう受容体があるということかな。まだ見たことないけど。
トロンビン受容体がこのようにして活性化するとPGI2産生・TXA2産生などいろんなことが起きますが、やはりメインは止血のメカニズムに直結するところです。止血の全体像もまた面白そうなので後日書こうかなぁと思ってたり。
それじゃまた。