じぇねくそぼーど

所詮は落書き。

アミンの合成法まとめ(mainのやつ)

久々の有機化学系の話題になります。

「アミンの作り方」をとりあえず羅列してみただけです。

 0. ダメな例

例えば1-クロロプロパンから1-アミノプロパンを合成したいとしましょう。


パッと思いつくのが「NH3と1-クロロプロパンをSN2的に反応させればいいのでは?」というものです。

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NH3は絶対過剰にあるからイオンと反応して目的の生成物が出てくるので、一件落着!の、ようにも見えます。これ、ダメです。
実は1-アミノプロパンはNH2基の隣に電子供与基のアルキル基があるので、アンモニアより求核性が大きいです。なので生成物の1-アミノプロパンはまだ残っているであろう1-クロロプロパンと反応し始めます。

ここで生じたジプロピルアミンに関しても同様の理由で更に求核性が強いので、もっとめちゃくちゃになります。(その後の酸・塩基平衡で中性アミンが生じるところは省略しました)こんなん、分離する気にもなりません。

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あー、むり。

(注: 第3級を超えて第4級アンモニウム塩が生じることもあります。第4級アンモニウム塩はそれで有用な反応があったりするので、ご参考までにチェックしてみてください。)

www.chem-station.com

まあ、こんな感じでとんでもないことになるので、単なるSN2だと無理そうです。なので他の方法を模索してみます。

 

1. アジドの還元

アジドというのは以下のような官能基です。

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一般的にはアジ化ナトリウム(NaN3)やアジ化カリウム(KN3)などの形で用いられることがほとんどです。室温では白い粉末で、とりあえずは安定ですが加熱すると爆発します。人体にはかなり有害で、Cytochrome c oxidaseを阻害してくるのでATP合成がお亡くなりになります。

アジ化物を作るのは簡単です。適当にSN2反応を起こすと容易に反応してくれます。こんな小さい分子に2つも負電荷があるので求核剤としてもバッチリです。

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このアジ化物を還元させるとアミンになります。還元する方法はとりあえず何でもいいです。LiAlH4でもよし、Pd/Cでもよし、Raney-Niでもよし。PPh3を用いる方法は特にStaudinger反応とも呼びます。どれを使うかは化合物次第ですが、これらの方法を吟味するのは本当の有機合成のシチュあたりなのかな〜と思ったりします。固相・液相中の反応であるかとか、生成物が水溶性かどうかも合わせて考えて選ぶところだと思います。

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2. Gabriel合成

19世紀のドイツの化学者のS. Gabrielという方が考案した第1級アミンの合成法です。

フタルイミドというものがあって、構造は以下に示す通りです。常温では固体の化合物でございます。

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このフタルイミドの特徴はアミノ基の隣にカルボニル基が二つもあることです。カルボニルは電子吸引基なので、仮にフタルイミドを脱プロトンして塩基/求核試薬として用いたとしても、(0)の例のように過剰なアミノ化反応を起こさないという利点があります。

この点に着目して、SN2的な反応をやってみると以下のようになります。

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まず、アミノ基を強塩基で脱プロトンさせた後に、ハロゲン化アルキルとSN2反応させると以上のようになります。

この後、何らかの方法でカルボニルを攻撃して五員環を開裂させて最終的に目的物のアミンを取り出します。教科書にはここでヒドラジンNH2NH2を用いると書いてあることが多いですが、ヒドラジンは結構危ない化合物なので普通に酸や塩基を加えて開裂させる方法もあります。

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(1) ヒドラジンの場合の反応機構

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(2)塩基を用いた場合の反応機構

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このGabriel合成は第1級アミンの合成法としては優れているのですが、第2級や第3級アミンは作れません。なので、「色々なアミンを作るための汎用的な手法」が欲しいところです。

あるんですね〜、これが。

 

3.  還元的アミノ化 (Reductive Amination)

もっとも安定していて広く用いられる方法が「還元的アミノ化」という方法です。

要は「アミン(NH3含む)とアルデヒド・ケトンを反応させて新たなアミンを作る」という話です。

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(酸性条件下(pH4~5)で、1当量のカルボニル+1当量のアミン+NaBH3CN→生成物+1当量BH2CN+1 H2O)

いずれも辿るステップは同じです。

1. イミン/エナミンの生成

2. イミン/エナミンの還元

カルボニル化合物とアミンを反応させるとイミンを生じますが、イミンは還元剤の作用でアミンになります。この手法は非常に多くのバリエーションのアミンを作るのに使えるのでかなり便利です(例外アリ)。

還元剤として用いられることが多いのはシアノホウ素化水素ナトリウム NaBH3CNです。ニトリル基があるので、水素原子にある負電荷がちょっとだけ弱くなり、結果としてNaBH4よりも還元力が弱くなります(もとよりEN H > B)。なので、反応物のカルボニルを還元することなく、イミンだけを還元できるようになっています。

反応機構は以下のようになります。ほとんどイミンの反応と一緒なのであっちの方を覚えていれば難しくありません。

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分子内にアミノ基とカルボニル基を持つ化合物でも、もちろん使えます。環状アミンがきれいに出来上がります。

アミンの合成においてはほとんど万能な還元的アミノ化ですが、痛い例外が一つだけあります。アミノ基とsp2炭素原子間の結合は作れません。

ex. 下の化合物を作るとき、ベンズアルデヒドエタノールアミンからは合成できない。

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なので、sp2炭素とアミンの窒素を繋げるためには別のアプローチを考える必要があります。上記の化合物ならばアニリンアセトアルデヒドからスタートして還元的アミノ化を用いるとか、もしくはカップリング反応などを駆使するなどして工夫する必要があります。

(参考: C-N結合を作れる良い例)

www.chem-station.com

 

gdgdしてきたのでこの辺で区切ります。

それでは。